勝胤寺檀信徒会館
~寺院からの村起こし~
佐倉市
・水田に映るファサード
●寺院背景
勝胤寺は、1528年に建立され、中世の豪族千葉氏の菩提寺であり、「格地」という寺格を与えられた、県下で有力な曹洞宗の寺院の一つです。かつて10以上の伽藍が存在していた境内は、厳しい歴史背景の中、小規模な本堂と庫裏を残すだけとなりました。過去25年間の復興計画の中で今回の工事が完成致しました。この会館建設の目的は現代に失われた地域社会の核としての寺院の存在の復興であります。
●外観デザイン
緑の山に囲まれた風景に見合うように境内を回遊できる屋外の回廊の木製デッキと象徴的な六角庇を設け、切妻の大きな瓦屋根、でお寺を暗示させる形体を造りました。予算を有効に利用するため敢えて伝統的な寺院の顔ではなく幅広い世代の交流を期待する現代的なデザインをこころがけました。外壁は杉板の縦張りとし自然との調和を意識しております。
所在地:千葉県佐倉市
構造規模:木造 平屋
敷地面積:7070.51㎡
建築面積:597.73㎡
延床面積:498.69㎡
用 途:寺院
●配置計画・平面計画
境内は市街化調整区域であり、農村地帯であります。背景を歴史ある豊かな緑の林で囲まれる伸びやかな風景を疎外せず境内と一体となって回遊性のある開放的な文化交流の舞台になるような施設を計画しました。会館は参道及び前面道路(公道)からスロープでアプローチできるように法要、葬儀、各種文化的会場のための「三法院」と墓参りの休憩や来賓の応接のための「客殿」が平行に配置されております。各部屋は屋外回廊から直接出入りする構成となっており、同時刻の利用者が干渉しない、ゆったりとした動線が構成されます。食事室である斎堂の大襖を開けると、催し会場である放光堂のプロセニアム舞台としても利用できます。
・三法院
集会室としての放光堂は、100名ほど収容できます。「放光堂」には、本尊が供えられ、法事を行ないます。直来の食事の席である「斎堂」の大襖を開けると、 W=2730、H=2500のプロセニアム、ボーダーライト、昇降バトン、電動スクリーンの機能がある舞台に様変わりします。葬儀や宗教儀式だけでなく、能、講演、コンサートホール等の文化演目の多目的な会場になります。「典座」は斎堂で食事の給茶、仕出し等をサービス回廊から搬入します。「方丈」及び「方丈の間」は法事や葬儀、講演等の導師や親族の控えの間として利用します。
・客殿
客殿は墓参り、参拝客、施設利用者の休憩室、喫茶室、展示室として椅子式の「ビハーラ」、茶室としても利用できる座敷の「書院」が用意されております。
・放光堂より渡り廊下を見る
・放光堂から舞台(斎堂を見る)
・放光堂から本尊を拝む
・回廊と枯山水
●構造計画
山からはたえることのない伏流水が地中を流れ、計画地はかつて水田であり、雨水の調整池になっております。木材を湿気から守り、床下換気を十分に確保しメンテナンスを考慮して地盤から1.2mの高さに鉄骨梁で人工地盤を造り、木造の平屋を乗せました。地盤は軟弱ゆえ、PHC杭を30本打ち込みました。
木構法は地元の大工が得意とする30×120の通し貫構法とし、横架材は追っ掛け大栓継ぎ、柱と土台は落し蟻等伝統的で金物をなるべく使用しない構法としました。4間半のスパンの放光堂はキングポストトラスで渡し、六角庇や軒の出はもち送り幕板構造を取り入れ構造が意匠となるデザインを心がけました。
●防災・安全・維持管理・高齢者・身障者対応等
諸室には全て屋外回廊から出入でき非難が容易かつ明確な動線計画となっております。屋外回廊や深い軒により外壁や建具が痛みにくくなっております。十分な床下のスペースが換気を促し、木材を長生きさせ、電気、給排水設備等のメンテナンスを十分できるように配慮しております。前面道路や参道からはコンクリート床のスロープを設け、多人数が利用する「放光堂」「ビハーラ」「便所」は回廊からの段差をなくしております。身障者専用便所を設けました。